かばんちゃんのシャツに「ここすき」を感じろ~「PLAMAX けものフレンズ かばん&サーバル」レビュー①~
さて皆さん、昨年11月に発売したコレ。
PLAMAX けものフレンズ MF-26 minimum factory かばん&サーバル 1/20スケール ABS&PS製 組み立て式プラスチックモデル
- 出版社/メーカー: Max Factory
- 発売日: 2018/11/17
- メディア: おもちゃ&ホビー
- この商品を含むブログを見る
これのレビューが殆ど見つからないので、本ブログでの初のレビュー記事として、このプラモデルの製作記を、2回に分けてやっていこうと思う。
それでは、どうぞ。
1:コスパ最悪のプラモデル
このプラモデルは、フィギュアメーカーとして有名な「Max Factory」が、生産、発売しているプラモデルシリーズ「PLAMAX」の、1/20組み立て式フィギュアキットシリーズ「minimum factory」の商品として発売された。
「誰にでも簡単に組立てられるフィギュア」というコンセプトで作られた、新感覚プラスチックモデルという触れ込みのこのminimum factoryシリーズ。
リアルで購入した人を一人たりとも見たことがないプラモデルの一つである。
私は結構模型趣味で、中心部へ出かけると決まってガンプラが全品3割引の某電気屋兼量販店で新商品を物色したりするのだが、このminimum factoryシリーズの棚だけは売れもせず入荷もせず、いつまでも同じ商品がずーっと並び続けているのだ。
つまり、(私の知る限り)売れていないのである。
なぜ売れないのか。
今回、この「かばん&サーバル」を購入するモチベーションは色々あったが、最も大きいのは売れない理由を知りたいからという好奇心によるものである。
我ながら嫌味な顧客である。
定価は2300円。
ガンプラで言えば、少し高めのハイグレードや、リアルグレードあたりの価格帯である。
しかして、その中身は……
これだけである。
かばんとサーバルを合わせて、これだけしかパーツが存在しないのである。
しかもスナップフィットではない、接着剤が必須なモデルである。当然、可動もしない。
ガンプラを作った人からしてはあまりにも物足りなく思えてしまうだろう。
特に一番手前の赤いランナーは、見た瞬間「ギャグかよ!」と笑ってしまった。
かばんちゃんのシャツのランナーである。たった1パーツしか整形されていない。しかも無駄に空白部分が多い。
一般的なガンプラのランナーと見比べてみると、その差は歴然だ。
ガンプラは左のようなA4サイズ程度のランナーが大体6枚程度入っている。方や、minimum factoryシリーズのランナーは小さくスカスカだ。
これで値段が同じ、場合によればminimum factoryの方が高かったりするのであるから、大体のユーザーはガンプラに流れ、minimum factoryを手に取ることすらないだろう。
そもそも、フィギュアが欲しければ、完成品や中古のプライズフィギュアを買えばいいだけなのだ。わざわざ自分で小さなトレーディングフィギュアを作ろうと思う人は相当少ないだろう。
「圧倒的なコスパの悪さ」
きっとこれこそが売れないことについての、最大にしてすべての理由だ。
結果、人々はバンダイのフィギュアライズバストやコトブキヤのフレームアームズ・ガールの棚へと歩き去っていく。
しかし、ここで思考を止めてはならない。
私の考察班としての座右の銘、
「知り続けることで、想像しつづけることで、見えてくる世界がある」
その言葉通りにこの珍妙なプラモデルを考えていくことで、新たな世界が見えてくるのである。次からはそれを紹介していこう。
2:組み立てなくてもいいプラモデル。
さて、このminimum factoryであるが、一つとても奇妙な点がある。
それは、「左右対称のパーツが一切ない」という事だ。
どういうことか?
下の画像は同じく美少女プラモデルとして有名なフレームアームズ:ガールのプラモデルのランナーである。
左右対称になった太ももや足、腕などのパーツが大量に並べられているのがお分かり頂けると思う。これを切り出し、対称になった2つを嵌め合わせて形を作っていくのだ。
そう、プラモデルとは基本的に「左右対称のパーツを組み合わせていく」ことで組み上がるものなのである。
しかし、この方法では、どうしてもとある厄介な存在が生まれる。
「合わせ目」である。
このように、綺麗なふとももに一直線に線が入ってしまう。
しかも、これは表面的なものではなく、物理的に存在しているものなので、紙ヤスリで磨いたりしても消えることはない。
結構気になるポイントである。
翻って、このキットのサーバルのふともものパーツを見て頂こう。
どうだろうか。
前後で分割することなく、完全に「一体成型」してある。
そう、このプラモデルの凄い所は、このように、
ランナーにくっついている時点で「完成されている」
ことにあるのである。
誰でも切り離すだけで、いや、切り離さずとも、一片の傷のないサーバルのふとももが手に入るのだ。(自分で書いていてなんだがとてもキモい表現だ)
最早、このように言っても過言ではないだろう
これは、パーツ単体で楽しむことが出来るプラモデルであると。
これについては、フィギュア雑誌「レプリカントEX Vol.5」誌上に置けるあさのまさひこ氏のマックスファクトリーの担当者へのインタビュー記事でも語られている。
「まずは、”多色成型のプラスチックモデルで美少女フィギュアを再現する”ということが先に決まり、その時に腕や脚、胴体や顔といった肌色で成型すべきパーツを分割せず無垢で一体成型できる限界のスケールが1/20であるということがわりだされたそうでして(このサイズに決定した)」
「やはり、肌色の肉体パーツだけは、どうしても分割したくなかったんです」
引用元
補足すると、プラスチックを成型する時に、あまりにも分厚く成型すると、硬化後に収縮し、「ヒケ」や「肉やせ」と呼ばれる現象が発生する。
故に、プラモデルは出来る限り薄く成型される必要があるのだ。大体のプラモデルが左右貼り合わせで作られているのは、可動のためのパーツを仕込むためなどの理由もあるが、一番は「ヒケ防止」のためにパーツの一つひとつを薄くするためなのである。
しかし、minimum factoryは、「サイズ自体を小さく」し、「ヒケが出ないほどパーツを小さく」することで、このような成型不良を防ぎつつ、綺麗な形状を一体成型することに成功したということだ。
フィギュアメーカーの矜持をかけて作り上げられたこの商品は、こう名乗るに相応しい存在だろう。
「最も造形にこだわったプラモデル」であると。
3:このプラモは価値観を「スライド」させる。
そして、こうしたコンセプトの恩恵に最も預かっているのは、きっと「かばん」のパーツ群である。
最早組み立てる必要なんてない、ランナーにつながった状態を見ているだけで、かばんちゃんの「ここすき」を次々に見つける事ができる。
髪の毛だけで、「かばんちゃん」だと分かる特徴的なウェーブがかかった髪。
毛先までシャープに成型されている。こうやってぼーっと見ているだけで、あの如何とも形容し難いおすまし顔が見えてくる。
次は脚
ふとももからふくらはぎにかけてのゆるやかなカーブ、膝小僧のでっぱり、そしてかばんちゃん独特の内股がしっかりと表現されている。靴のディテールも バッチリだ。
これを切り取って、靴をちょいちょいと筆塗りするだけで(あとつや消しスプレーを吹き付けると)
こうなる。
ズボン
サーバルのスカートもそうだが、このパーツ、ランナーがパーツの凹みを避けるようにへんな形に折れ曲がっている。
これこそ「スライド金型」という技術で作られたという証拠だ。
一般的にプラモデルは、「たいやき」の型のように、上下に分かれた型を合わせたものに高温、高圧で射出したプラスチックを流し込むことで成型される。
では、このような、中に空洞のある銅鐸を作りたいと思ったら、どのような型を作ればいいだろうか。
このように、「中子」を作って、両サイドの型の間にはめ込んだ状態で成型すればいい。
今回のサーバルのスカートも、かばんちゃんのズボンも、基本的にはこの「中子」を金型に採用することで成型しているのだが、この成型方法はそんなに単純な話では終わらない。
というのも、金型は成型されるときに高温高圧になっているのでそれに耐えられるようにしっかりと圧力をかけて「中子」を固定しなければいけない、そのための機構を金型の中に作る必要がある。
また、取り外す際には、上下の金型が外れるのと同じタイミングで中子が抜けるようにしなければ、プラが完全硬化してしまい外れなくなってしまう可能性がある、そのための機構も備えなければならない。
そして、スライドするための空間をランナーに備えておかなくてはならない。結果、ランナーには大きなデッドスペースが残ってしまう。
つまるところ、メチャクチャコストがかかるのが、この「スライド金型」なのだ。
私はこれほどまでに、スライド金型を多用したキットを見たことがない。
というのも、大体の場合、この問題は「左右貼り合わせ」によって解決されることが殆どだからだ。
しかしminimum factoryはこの方法を選んだ。
あえてコスパ最悪の成形方法を選んだ。
何故か
「無垢の綺麗なパーツをユーザーに届けたかったから」
それ以外に理由はないだろう。
その結果、私達は自分の手元の「かばんちゃんでかいけつ」のパーツを「ここすき」することが出来るのだ。
実際のパーツがでかいかどうかは君の目で確かめろ!
さぁ、ここまで説明してきたところで、最初のパーツを見直してみよう。
あのスカスカのかばんちゃんのシャツのランナーである。
まず、赤色の成型色が使われているのは、このパーツ一個だけだということが分かるだろう。
うらを返せば
「このパーツを赤色で成型するために、わざわざ金型を一個制作した」という事である。
金型は一つ、数百万円程度かかると言われている。
つまり、このシャツのパーツを赤色で製造するためだけに最低でも百万円かけたのである。
いや、まだかかる。
このランナーの冗談のような空白部分。
これは間違いなく、「スライド金型」が使われた証拠だ。
そして、このパーツに使われたスライド金型の数は…
ここで一箇所
ここで二箇所
合計3箇所である。
一つのパーツ、しかもこの小指程度のサイズしかないパーツに3つもスライド金型を使用しているのだ。
これの金型代、間違いなく500万円は下らないだろう。
はっきりいって異常だ。これは事件だ。
でも、今はこの言葉だけで十分だ。
MAX Factoryさん、本当にありがとう。
4:説明しなくちゃ伝わらないもの。
しかし、パッケージや説明書を見ても、これまで書いてきたようなことは一切書かれていない。
つまり、大体の人にとってこのプラモデルは、「パーツが少なく隙間だらけの組みごたえのないくせにやたら高いプラモデル」とされてしまうだろう。
それがこのプラモデルの「評価」である。
残念ながら。
前回のエントリの感想を見ていて、その事実を突き付けられる。
説明されなくては分からない事など、評価の範囲外である、と。
コメント70件とかもうリプ返無理っす。
だけど私は敢えて言いたいと思う。
本当にそれでいいのか、と。
「説明しなければ伝わらない」なら、そのモノに意味は無いのだろうか。「違う視点からの感想」など、単なる想像や妄想と切り捨てられても仕方ないのだろうか。
それでそのモノの評価が変わることがあってはいけないのか。
私はこれについて何一つ「いや、そうあるべきだ」と言うことは出来ない。すべての判断は受け手一人ひとりに委ねられる。
だからこの記事を読んで「ここまで説明されなくちゃ魅力が分からないプラモデルなんていらない」と思われる事は十分覚悟している。
そういう人は1000円程度上乗せしてねんどろいどを買って頂きたい。
ねんどろいど ケムリクサ りん ノンスケール ABS&PVC製 塗装済み可動フィギュア
- 出版社/メーカー: グッドスマイルカンパニー(GOOD SMILE COMPANY)
- 発売日: 2019/09/30
- メディア: おもちゃ&ホビー
- この商品を含むブログを見る
販売元も同じだし。
でも、それでも、
この記事の内容で得た視点や解釈を踏まえて、「このプラモデルの本当の価値を自分の目で確かめたい」と思った人が一人でもいるならば。
是非、この「全く売れないプラモデル」を買ってみて欲しい。
眺めて楽しんで欲しい、組み立ててみて欲しい。
そして、自分だけの「評価」を下して欲しい。
きっと、その積み重ねによって、私達の、社会の、世界の価値観は「スライド」していくだろうから。
PLAMAX けものフレンズ MF-26 minimum factory かばん&サーバル 1/20スケール ABS&PS製 組み立て式プラスチックモデル
- 出版社/メーカー: Max Factory
- 発売日: 2018/11/17
- メディア: おもちゃ&ホビー
- この商品を含むブログを見る
まぁ私はどっちも買うけどね。
そういえば、このプラモデル、「色分け済みのプラパーツを組み立てて手軽に楽しめる」との触れ込みながら、組み立てた状態での写真を一切載せていない。
これは一体どういう事だろうか。
#plamax minimumfactory かばん&サーバル 無塗装だとこんな感じです。
— 鍛冶屋(アンこノフ) (@kajiya0817) November 17, 2018
比較すると全高はニパ子と同じくらい、顔大きめ、からだ小さめのデフォルメですね。本来白の部分は薄いブルーの成形色、かばんの帽子は
ダボなし乗せてるだけです。 pic.twitter.com/h43vJF5Ini
あっ……(察し)
というわけで次回は、「組み立て、塗装編」である。
君は生き延びることが出来るか。